無職と1クールアニメ

「明日休みならアニメみよう」をコンセプトに1クール完結アニメを紹介。ネタバレはありません。

『すずめの戸締まり』から考える「ミミズと地震」

正月ぶりに母親と会った。

母親が住む実家では、先日の石川県で起きた地震の影響はさほどなかったよう。

揺れよりも地震を知らせるアラームに驚いたと興奮気味に語る母を見て、最近見た映画を思い出した。

『すずめの戸締まり』が日本を席巻したのはたぶん1年ほど前。今や日本を代表するクリエイターである新海誠の最新作ともあって、公開期間中はいろんな所で名前を聞いた。

世間が盛り上がれば盛り上がるほど、劇場に行きたくなくなる偏屈な自分。それでも、毎日耳にするタイトルからどんな作品なのかよく想像していたのを思い出す。

簡単に言えば、日本各地で起こる災害(地震)を未然に防ぐ物語。

この作品で一番印象に残ったのは、「ミミズ」というワードというか、概念。

「ミミズ」は、作中で地震を引き起こす化け物みたいなもの。普通の人間には見えず、主人公や閉ざ師と呼ばれる、地震を防ぐ能力を持つ人のみが見えるデッカいやつ。

「ミミズ」は冒頭1分ほどで登場した。概要はすぐに飲み込めた。それはきっと「地震を引き起こす生物=ナマズ」という常識(?)があって、「ミミズ」はナマズと似ているしきっとそれを指しているんだろうなと分かったからだ。

ただ、ミミズが地震を引き起こすという設定にちょっと納得がいかなかった。なぜなら、ミミズはナマズと違って非力で、とても大地を揺らすような潜在能力を持っているとは思えないからだ。

「いやいや、フィクションだし」「そんなこと言ったら、ナマズだって実際に地面を揺らすほど力ねえよ」このようなツッコミが同じく自分の頭から発せられる。

不毛だとは思いながらも、自分自身に反論してみる。

 

たとえフィクションだとしても、没入する納得感のある設定は必要だ、と。特に、ミミズという概念が登場するのは映画が始まってすぐ。自分と同じように、「ミミズ」に対する違和感を抱えたまま映画を見終えてしまった人はどれぐらいいただろうか。

これが新海誠の最新作に対するぼくの率直な感想。

 

「ミミズが地震を引き起こす」

この設定がいかに違和感を覚えるのか、をハッキリさせようと、ネットで色々と調べてみた。

 

まずは、ミミズと地震について。

https://smart-flash.jp/lifemoney/life/6989/1/

地震の予兆を知らせる動物をまとめたこちらのサイトでは、無数のミミズが震源とは反対方向に移動したと書かれている。1999年に台湾で起きた地震で報告された事象らしい。

他にも、地震が起きた地中から丸まったミミズが大量に発見されたという記述がけっこう見受けられる。

どうやら地震が起こる場所にミミズが集まるというのが定説らしいが、その定説からミミズが地震を引き起こすという設定に発展させるのはなんかスマートじゃないように感じる。

そう感じるのは、おそらくミミズを貧弱、生物の中で最も非力な存在であるという固定観念があるからだと思う。

ただ、この固定観念はこれまで自分が道端で見たミミズへの総合的な印象であって、実はミミズには一般的には知られていない凄まじい生態があるのかもしれない。

ということで、ミミズの隠された(あるか知らないが)生態について調べてみようと思う。

ミミズが持つ特筆した能力として、分身能力がある。

「ヤマトヒメミミズ」というミミズは、体を切断されても切断された両方とも再生する能力があるらしい。普通のミミズは体を切断されたら、頭のあるのみが再生し、尻尾の方は死んでしまうそう。しかし、「ヤマトヒメミミズ」という日本で発見されたミミズは両方とも再生できる能力があるとのこと。

これはとても分かりやすくてスーパーな能力。でも、これは地震とは関係のない能力だと思う。

他にミミズに特殊な能力はないかと調べてみると、「ダーウィン」という言葉がよく出てきた。

ダーウィン」はあのチャールズ・ダーウィンで、人類で最も有名な生物学者は長年ミミズの研究をしていたそう。生涯最後の著者が『ミミズと土』だったり、「ミミズは歴史上最も重要な生物」と評するほどミミズを高く買っていたらしい。

ダーウィンが言うんだから凄いと結論づけるのは如何なものかと思い、ダーウィンがミミズのどの辺を高く評価していたのかを簡単にまとめてみる。

まず、ミミズは何をして普段過ごしているのか。彼らは土や枯れ葉を食べて、フンをして過ごしている。

「食べてクソする」当たり前じゃんとスルーしてしまいそうになるこの行動こそが、ダーウィンがミミズが重要な生物だと言ってた理由。

ミミズは毎日自分の体重の1/3以上の量を食べてフンを出すそう。ミミズの体重は軽すぎてピンと来ないので、人間で考えてみるとその異常さがよく分かる。

一般的な成人男性の体重が60㌔。その1/3は20㌔。毎日20㌔のモノを食べて、その分排泄する。20㌔前後の排泄物が毎日1億人から出たとすると、いかに日本の下水処理技術が高いとは言え絶対追いつかない。きっとそこら中で汚物の山が出来続けることだろう。

ミミズは人間の体重の1/100ぐらいだとしても、日本の多いところでは1平方mに1200匹のミミズがいるらしい。1平方mにいる1200匹のミミズが1年間で排出する量は15㌔。15㌔って、スーパーで売ってる米の3倍。ダーウィンがミミズを評価する理由がちょっと分かる気がしてきた。

乱暴にまとめると、ミミズは地中を支配する覇者。あり得ない食欲と、あり得ないお通じの良さを武器に、地球の長い歴史で生き続けている凄いやつ。

ミミズの生息地は地中。彼らの凄まじいエネルギーは地中の内部に向けられている。

一方、地震が発生するのは地中数十キロ。10キロ程度の震源の浅い地震は、ミミズの生産拠点と重なると言われても納得できる。ミミズが土を食べて排出する際に発生するエネルギーが大地を揺るがす、それが我々が呼ぶ地震の正体。

というのはかなり強引だが、ダーウィンが唱えるミミズ最重要説を根拠にミミズと地震を考えてみると、『すずめの戸締まり』に出てくる「ミミズ」という設定が少しだけ飲み込めるような気もしなくもない。

ここまで書いたことは、『すずめの戸締まり』を起点にした勝手な妄想なので本気にしないでください。

新海誠作品の魅力は、何と言っても画力。概念的には納得できなくても、画面いっぱいに描かれた化け物を見たら「ミミズ」は否が応でも受け入れられると思う。

色々考え末、『すずめの戸締まり』はただ純粋に映像を楽しむべき作品なんだと思うし、まだ見ていない人にはそのようにお勧めしたい。