「自衛隊とアニメ」について調べて分かったのは、外務省のシンプルな採用方針だけ。
AmazonUnlimited対象になっている、こちらの本を読んだ。
「いかにも」オカルトチックなタイトル。読み終わったころには、怪しい宗教団体に入信したくてたまらない精神状況になっているかもしれない。そんな怖いもの見たさを胸に読み始めた。
内容は、至って「ちゃんと」していた。ヒトラーや百田尚樹など、史実や具体的な作品を例にとって、どの辺がプロパガンダなのかを解説してくれる。右翼やリベラルなど、繰り返し聴いたことはあるがイマイチ分かっていない用語を理解する助けにもなって、結構実りのある一冊だと感じた。
本書では、アニメはプロパガンダに利用されたと繰り返し書かれている。例として、オウム真理教の自作アニメ『超越世界』や佐藤正久国防部会長がメインを務める『教えて!ヒゲの隊長』などが挙げられる。また、商業的な目的で作られたアニメが、政治的なプロパガンダのために利用された例として、『艦これ』や『ガールズ&パンツァー』なども紹介されている。
今回は、アニメとプロパガンダの中でも、「アニメ×自衛隊」という組み合わせについて調べたことを書いていきたいと思う。具体的には、以下の内容について書く。興味があるところをクリックして、楽しんでもらえたら嬉しい。
「アニメ×自衛隊」の基本構造
Googleで「アニメ 自衛隊」と検索すると、約1,300万件の結果が得られ、以下のような作品が表示される。
「自衛隊アニメ人気ランキング!」なるものまで存在していて、自衛隊は繰り返しアニメの題材となってきたことが分かる。
これらの作品に共通するのは、「物語の中に自衛隊が登場する」という点。例えば、2013年に公開された『名探偵コナン 絶海の探偵』では、コナンたちが海上自衛隊が保有するイージス護衛艦"ほたか"の体験航海に参加するという物語となっている。実際の艦内が再現され、コナンという身近な作品を通して、普段見ることができない自衛隊の一部を見ることができるようになっている。ぼんやりと見ている視聴者からすれば、「へえ、艦隊ってこんな感じなんだ」や「自衛隊の人たちは、普段こんな仕事をしているんだ」などの感想を抱く。つまり、アニメは自衛隊を広く知ってもらうための機会となっている。このコナン映画もそうだが、自衛隊が登場する作品は、「自衛隊全面協力」的な触れ込みがついている。
自分のようにひねくれた人は、こう考えるだろう。「”ただ”知ってもらうだけで、自衛隊が協力するものか?」、と。もっと分かりやすく言うと、「自衛隊が協力する裏には、ビジネス的な思惑があるのではないだろうか?」、と。協力という文字通り、制作に協力したからと言って、自衛隊(防衛省)がお金をもらうことはないことは、最初に紹介した著書『たのしいプロパガンダ』にも書いてあった。では、自衛隊は制作協力することで、どんな利益を得ているのか。
自衛隊は、アニメでどんな利益を得ているのか?
1つは、イメージアップ。内閣府が2018年に発表した自衛隊・防衛問題に関する定期世論調査(※)の結果報告書によると、9割弱の人が自衛隊に対してよい印象を持っていることが分かる。年齢が上がるほど「良い」と答える割合が高く、若い世代は「どちらかと言えば良い」の割合が多い傾向が見て取れる。
これは、歳をとるほど災害時などに自衛隊のお世話になった割合が増えるからで、若い世代が何となく良いイメージを持っているのは、メディアなどで好意的に映されることが多いからだろう。先ほども挙げた『名探偵コナン 絶海の探偵』で、元太が海上自衛隊を「海の名探偵」と称するセリフがある。この映画で初めて自衛隊を知った子どもの中には、このセリフで「自衛隊って、カッコイイ」と感じ、「大きくなったら、海上自衛隊員になりたい」と言い出す子も一定数いただろう。自衛隊は、アニメなどの作品で自衛隊を描くときに、以下のような表現をするようにお達しを出している。
諸映画会社に対しては、防衛意識を高めるようなもの、ないし自衛隊を正しく興味深く取り扱うものを製作するよう誘導する。
劇映画の製作に際しては、自衛隊色を表面に出さず、観客に自然と防衛の必要性、自衛隊の任務等が理解されるよう部外専門家の創意に期待する。
2つを要約すると、「自衛隊が好意的に思われるように紹介してな。ただ、やりすぎには注意してな。あんまりミリタリー(軍事的)全面にすると引かれちゃうから」的な内容。「自衛隊全面協力」とされている作品では、公開前に自衛隊によるチェックが入っているだろう。つまり、「自衛隊が良い感じに思われるか」や「ミリタリー全開すぎないか」など、審査を通ったものが、世の中の人に届く。
自衛隊がアニメ制作に協力するもう1つの目的は、入隊希望者の獲得。
最も採用枠の大きい「自衛官候補生」の応募者・採用者数を見ると、全体的に右肩上がりであることが分かる。倍率は3~6倍の間を推移していて、まあまあな難易度を維持している。応募資格は18歳以上33歳未満に限られ、少子化が進む中で母数が減り続けるのは自明。それに合わせて採用基準を下げてたとしても、定着率が下がるだけ。トータル的なコストを考えると、「それなりの」人を採用するスタンスは変えないから、倍率も大きく変動しないと見るのが妥当だろう。「優秀な人を低コストで入れたい」という思惑は、民間企業と同じ。でも、自衛隊を就職先の候補に考える一般人は少ない。そこで利用されるのが、アニメ。
上は、「自衛隊 ポスター」のGoogle検索結果。9割近くがアニメ、もしくはイラストタッチで占められる。内容は、ほとんどが「自衛官募集」で、防衛省によるアニメのフル活用ぷりが見て取れる。
ここまでの内容をまとめると、下の図に集約できるだろう。
自衛隊 | アニメ会社 | |
宣伝したい | 目的 | 商品(作品)を売りたい |
・イメージアップ ・応募者獲得 |
相手と組むメリット |
・品質アップ ・ブランド(自衛隊お墨付き)獲得 |
・応募者増加 | 具体的な効果 | ・視聴者(率)アップ |
「アニメ×自衛隊」のプロパガンダは成功しているのか?
では実際に、想定した効果は得られているのだろうか。アニメに関しては、自衛隊が協力してくれた場合とそうじゃなった場合を比較しようがないが、自衛隊はアニメを使った募集人数の変化でハッキリと効果を測ることができる。「自衛隊が制作協力した」且つ「自衛官の採用活動に利用された」作品をピックアップして、宣伝効果を検証してみようと思う。
ハイスクール・フリート
アニメ版は2016年4月10日 - 6月26日、劇場版は2020年1月18日に封切された作品。
海上自衛隊が「全面協力」している。
見返りとして、「自衛隊神奈川地方協力本部」の自衛官募集ポスターに起用(利用?)されている。
自衛官の応募期間は、毎年「3月~4月中旬」と「3月~6月中旬」の計2回。上のポスターが掲載された始めたのは、4月10日。第2回の公募中と重なり、バッチリ時期を充ててきたことが分かる。ポスター掲載された2016年4月は、年度で言うと「平成29年度」。その前年(平成28年度)の「自衛官候補生」に29,067人応募していた。ポスター掲載された平成29年度の応募は、27,510人。まさかの1,557人の減少。割合にして5.4%減。
全体の有効求人倍率は、上向いていていたことを考えると、一般企業への就職が積極的で、いわゆる「民間から溢れた組」が少なかったことが応募数減少の一因かもしれない。全体の有効求人倍率と自衛官の応募数の関係について、統計的な分析をしてみても面白いかもしれない。
で、結局なにが言いたかったのか?
最後に、この記事の内容をまとめておこう。
- アニメは、プロパガンダとして利用されがち。
- 自衛隊は、採用活動においてアニメをフル活用している。
- 「自衛隊全面協力」という触れ込みがあるアニメは、自衛官募集ポスターに起用される運命にある。
- アニメをポスターに掲載したからと言って、応募者が増えるとは一概に言えない。
今回の調査で、プロパガンダの効果を測るのは難しいと痛感した。自分が統計や数字を苦手としているからという理由に加えて、アニメを起用した宣伝ポスターが自衛官の募集人数に与える影響度合いはかなり小さいのではないかということが、何となくだが分かった。
ハッキリと分かったのは、「ポスターにアニメを載せとけば、応募者増えるんじゃね?」という、自衛隊(外務省)の採用方針だけだった。