アニメ界No.1!ターニャ・デグレチャフの有能さをドラッカーと考える
先日作成した上司にしたい1クールアニメキャラんキングでは、『幼女戦記』のターニャ・デグレチャフを1位に選んだ。
個としての圧倒的な戦闘力に目が行きがちだが、組織社会を生きる管理者(マネージャー)としても超優秀。
軍隊という超組織社会で活躍できたのは、転生前のサラリーマン時代に管理職を務めていた経験が大きいだろう。
作中でも、軍人をサラリーマンと重ねているシーンが、たびたび見受けられる。
まったく、サラリーマンもつらいものだな!(第1話)
戦務参謀と言えば、後方のトップ!企業なら、経営戦略の中枢!(第4話)
これぞ、有意義なプレゼン!社会人の醍醐味だな(第4話)
今回は、ターニャがいかにマネージャーとして優れているかを、ある一冊の名著の内容で検証したいと思う。
その本は、ピーター・ドラッカーの『マネジメント』。
「マネジメント」という概念を生み出したドラッカーが残したこの本は、ターニャのマネジメントの質を図るにはピッタリの一冊だろう。
なお、今回は分かりやすさを考量するため、『マネジメント』を分かりやすく解説した『徹底的にかみくだいたドラッカーの「マネジメント」「トップマネジメント」』(二瓶 正之 著)を参考文献として使う。
マネージャーの業務
ドラッカーが唱えるマネジャーの基本業務は、以下の5つ。
- 目標を設定する
- 組織する
- 動機づけを行い、コミュニケーションをはかる
- 評価する
- 自らを含めた人材を育成する
ターニャの言動に注目し、彼女がマネージャーとしての業務を遂行しているかを検証。
目標を設定する
ドラッカーの定義
率いる部門の目標とすべき到達辞典を明らかにするととも、目標の意味と意義を伝えること
出典:徹底的にかみくだいたドラッカーの「マネジメント」「トップマネジメント」
ターニャは、出撃前に必ず隊員に向けて挨拶をする。
隊の士気を高めるという役割に加えて、作戦の目的をハッキリと伝えているのが分かる。
ターニャの言動
我々には新戦術の実践検証が期待されている。ハイキングに行ける程度には、団体行動ができることを示さねばならん。くれぐれも軍人としての義務を忘れるな!(第6話)
これより我々も本艦から出撃。包囲撃滅戦に参加した後、帝都へ帰港する。分かっていはいると思うが、帰るまでが遠足だ!勝利の宴に参加しないうちにヴァルハラにぬけがけだけは許さん!(第10話)
命令を受けた隊員たちの表情が明るい!
有利な戦況というのもあるだろうけど、「この人と一緒だったらやり遂げられる!」という絶対的な信頼があるからなんだろう。
組織する
ドラッカーの定義
必要とされる行動、意思決定、活動間の関係を分析したうえで、仕事を管理可能な組織構造にまとめあげ、役割分担を明確にすること。
出典:徹底的にかみくだいたドラッカーの「マネジメント」「トップマネジメント」
ターニャは、常に軍隊という組織の目的達成のために行動する。
その姿は時に、非情・機械・冷血に映るが、「組織の成長無くして栄光なし」というドラッカーの唱えるマネジメント論を体現している人物と言える。
ターニャの言動
軍人としての責務を果たしているだけです。部下の統制は上司の役目ですから。(第2話)
訓練に遅れてきた新兵に対して、銃を向け規律を守ることを叩き込むシーン。
上官に止められるほど行き過ぎた感はあるが、組織の秩序を守ることを第一に考えた”組織人”としての行動と捉えることもできるのではないか。
動機づけを行い、コミュニケーションをはかる
ドラッカーの定義
組織メンバーをチームとして一体化させるために、日常の仕事の中で適切な動機づけと円滑なコミュニケーションをo行うこと。
出典:徹底的にかみくだいたドラッカーの「マネジメント」「トップマネジメント」
出撃前の隊員を鼓舞する挨拶では、ユーモアを交えているのが印象的。
ターニャの言動
私と中尉連中をロストしている時点で作戦は失敗だろう。そこまで重装備の敵が出てくれば成算はない。全く鉱山のカナリアの気分だな。(第7話)
このセリフに対する隊員の反応
では、せいぜい華麗に鳴いてみせるとしましょう。
はて、どう鳴けばいいのやら。
ピヨピヨですかね?
今から戦場に行くというのに、なんか楽しそう。
ユーモアを交えて組織の雰囲気をやわらげ、部下たちの士気を高めるターニャの天才的な人心掌握術が伺える。
対照的なのが、敵軍である共和国軍。
諸君、祖国のためによくぞ立ち上がってくれた。若き諸君らの力があれば、勝利は確実である。既に栄誉は約束されている。死をも恐れぬ、奮戦を期待している。
この時の隊員の反応
ハッ!
規律正しさはあるが、どこか表情が硬い。
死の覚悟ができていると言えば聞こえは良いが、残念ながら組織全体の士気を上げることには失敗しているように映る。
評価する
ドラッカーの定義
明確な評価基準を示し、組織全体の業務と各個人の業務の両者に焦点を合わせたうえで、評価結果をフィードバックすること。
出典:徹底的にかみくだいたドラッカーの「マネジメント」「トップマネジメント」
ターニャは、良い働きをした部下たちを称えることを忘れない。
ターニャの言動
諸君、ダキヤでの働きはご苦労であった!(第6話)
ただ酒を一生分飲めると保証しておくぞ。困ったことに、私はコーヒー党だがな!(第11話)
諸君!凱旋だ!(第11話)
自らを含めた人材を育成する
ドラッカーの定義
企業の未来はリーダー的人材の育成にかかっていることを自覚し、部下一人ひとりが強みを成果につなげることができる人材に育つことをサポートし、その過程で自ら実践して、手本を示すこと。
出典:徹底的にかみくだいたドラッカーの「マネジメント」「トップマネジメント」
ターニャの育成方針は、ドラッカーが説くものと正反対かもしれない。それは「弱みを見せれば殺られる」という戦場であるからだろう。
ターニャの言動
グランツ少尉、逃した敵はまた銃を取るのだ。我々に撃つためにな。やつらを逃せば、あの中から帝国に憎悪を燃やす新兵が生まれるだろう。(第8話)
躊躇する部下に銃を持たせ、敵を掃討するよう命令している。
しかし、「上からの命令」であるということを強調しているのがポイントで、帝国という組織、ひいては部下という個人を守るための行動と受け取ることもできる。
優れたマネージャーの行動習慣
ドラッカーは、優れたマネージャーは以下の8つの行動習慣があると唱える。
①「何をしなければならないか」を自問自答する
②「わが社にとって正しいことは何か」を自問自答する
③アクションプランを策定して実行する
④意思決定に対して責任をもつ
⑤コミュニケーションに責任を負う
⑥問題ではなく機会に焦点をあてる
⑦会議を生産的に進行する
⑧「私」ではなく「われわれ」を主語にして
この中から複数を取り上げ、ターニャの言動と重ね合わせてみる。
②「わが社にとって正しいことは何か」を自問自答する
上官に対しても躊躇せず提言するのは、ターニャのマネージャーとしての優れた一面。
長官の義務として、断固意義を申し立てます。このままでは、現場の部隊に甚大な負担を及ぼすばかりかと。(第7話)
隣のメガネ君が気まずそうにしているように、偉そうで怖そうな目上の人を前にしたらビビッてしまうもの。
昇進に響きそうな”上への物言い”だが、組織を最優先にするというターニャの一貫した態度が垣間見える。
④意思決定に対して責任をもつ
上官に対して提言するときも、部下に対して命令を下すときも、ターニャは自らの行動に責任を持つ。
ターニャの言動(伝聞)
命令であることを強調された。指揮官は自分。だから、部下が責任を負う必要はない。もしかしたら、そんな意図があったのかもね!(第9話)
伝聞であり真偽のほどは分からないが、ヴィーシャ中尉が考える通りだとすると、これほど信頼できる上司はいるだろうか。
⑥問題ではなく機会に焦点をあてる
ターニャの言動に注目すると、目の前の”問題”ではなく、その先の”機会”をとらえて動いていることが分かる。
ターニャの言動
どうか出撃を、今しかないのです!このわずかな時間で、帝国がこの世界の全てを手に入れるか、その全てを失うかが決まるのです!(第11話)
敵の総本部をたたき帝国が攻撃をされる”問題”がなくなったことに皆が安堵している中、ターニャだけは戦争を終わらせることができるという”機会”に焦点をあて、追撃の提言しているこのシーンは象徴的。
⑧「私」ではなく「われわれ」を主語にして
ターニャは、基本的に「われわれ」を一人称として使う。
部下に語りかける時も、上官に対しても、常に「隊・帝国」という組織を主語にしているのが特徴。
ターニャの言動
さらに前へ。もっと前へ。ものは試しだ、いけるところまで行こうではないか。我々なら前へ進める。(第5話)
リーダーシップとは
ドラッカーは、リーダーシップを以下のように定義している。
リーダーシップはカリスマ性とも資質とも関係なく、本質は「行動」にあります。その行動とは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立するということです。
出典:徹底的にかみくだいたドラッカーの「マネジメント」「トップマネジメント」
ターニャが隊員からリーダーとして信頼されている理由は、行動にある。
常に先頭を行き敵陣に切り込むのは、リーダーシップを示す行動であると言えるだろう。
ターニャの言動
確かに私がやった方がよさそうだな(第5話)
国際法にのっとり、敵軍に警告を発するシーン。
一度は部下である少尉に任せようとするが、隊員の様子を伺い隊長である自分がやった方が良いと判断し、ターニャ自身が警告を行うことにする。
まとめ
今回は、ドラッカーの『マネジメント』のエッセンスを用いて、マネージャーとしてのターニャ・デグレチャフというキャラクターの解剖に試みた。
血も涙もない個人主義者と語られがちなターニャというキャラクターの見方は、かなり変わったのではないだろうか。
『幼女戦記』をまだ見たことのない人も、すでに見たことがある人も、”優れた組織人としての幼女”に注目して見ていただきたい!